乳がんと確定診断されたら、主治医はまず乳がんの大きさ、脇の下のリンパ節への転移の有無、遠隔転移の有無を調べます。この3つの要素によって分類されるのが「病期」です。病期はあなたの乳がんの進行度を示し、最適な治療法を提示してくれます。しかし、この章で知ってほしいのは、病期はあくまで術前診断で、目安にすぎないということです。手術によって取られたしこりやリンパ節を病理医が顕微鏡で見て調べる「術後の病理診断」が乳がんの進行度の確定診断なのです。
主治医はまず病期(ステージ)の決定 に必要な検査をします。次にあなたが手術や全身麻酔に耐えられるかを調べます。
触診、超音波検査やマンモグラフィーによって乳がんの大きさ、局所の広がりを正確に調べます。CTスキャンやMRIが用いられることもあります。
脇の下のリンパ節をよく触って調べます。超音波検査、CTスキャン、MRIが有用なこともあります。
乳がんが遠隔転移しやすいのは首のリンパ節、骨、肺、肝、脳です。首のリンパ節をよく触って調べます。血液中の腫瘍マーカー(がんによって作られる物質)の値を調べます。肺のレントゲン、CTスキャン、骨シンチグラフィー、肝臓の超音波やCTスキャン、脳のMRIやCTスキャンを行うことがあります(その必要性については再発の発見を参照)。最近では手術前の検査としてPETも導入されています。
採血をして、貧血、肝機能・腎機能の低下、他の人に移す恐れがある感染症がないかを調べます。また全身麻酔で手術するときは、心電図や呼吸機能の検査を行います。
乳がんの大きさ、脇の下のリンパ節の転移の有無、遠隔転移の有無によって病期を次のように分類します。
表2-1 乳がんの病期 (ステージ)
0期:非浸潤がん
ⅢB期:がんが皮膚や胸筋に浸潤、炎症性乳がん、胸骨傍リンパ節に転移
Ⅳ期:遠隔転移
術前の病期判定より、術後の病理診断が正しいのです。がんの治療後の経過(あるいは生存率)のことを「予後」と言います。予後に影響を与える因子のことを「予後因子」と言います。予後因子にはいろいろなものがありますが、その多くは手術をしないと判明しません(乳がんの補助療法を参照)。術前にわかっているのは乳がんの大きさ、脇の下のリンパ節の転移の有無、遠隔転移の有無だけです(これも確定診断ではありません)。たまたまこれら3つの因子は乳がんの予後に最も大きな影響を与えるために、これらを中心に病期を決定することになりましたが、実際はかなりいい加減なものです。
測る人によって誤差が生じます。しこりの大きさを2㎝とするか2・1㎝とするかで病期が異なります。また術前に大きいと判断したがんを術後病理検査で実際に測ってみたら小さいことや、その逆はよくあります。
術前に手で触れて判断しますが、実際に手術でリンパ節を取ってみないと正確なことはわからないのです。術前の 診察で腋窩リンパ節転移があると言われた患者さんの27%には転移がなく、転移がないと言われた患者さんの39%には転移がありました(信頼度3)。
遠隔転移は、骨、肺、肝臓、脳の順で生じますので、一般的には骨シンチグラフィー、CTスキャン、MRI、超音波検査により検査します。また、血液中の腫瘍マーカーの上昇が指標となる場合もあります。
乳がんと宣告された方の多くが「私のがんは治るのか?」「私はあとどれくらい生きられるのか?」といった予後(つまり自分の未来)を知ろうとします。予後を術前に予測するには予後因子の組合せによる病期分類が便利なのです。しかし、この病期は術前に判定し、術後に変更してはいけないことになっているために、術後の病理結果が反映しない、いい加減なものになってしまうのです。術前の病期分類はあくまで参考程度にとらえ、術後の病理結果による冷静な判断をしましょう(乳がんの補助療法を参照)。
腫瘍マーカーはがんによって作られる物質 で、がんがあるとマーカーの値は高くなります。2つの種類があります。
CEA など。乳がんだけでなくあらゆるがんや炎症でも陽性となる。
CA 15-3、BCA225、NCC-ST439。
腫瘍マーカーを測る目的には次のようなものがあります。
早期乳がんという言葉を聞いたときの印象は、「治療が簡単そうで、命に問題ない」ということでしょう。確かにこの早期乳がんの意味は2つあります。
表2-2核腫瘍マーカーのがん別陽性率
皆さんが主治医から「進行乳がんです」と言われたときの印象は、「治療が困難で、もう手遅れ」ということではないでしょうか。確かにこれまでは通常の乳がんより早期のものが早期乳がん、手遅れなものが進行乳がんと呼ばれてきました。しかし現在は早期以外の通常の乳がんはすべて進行乳がんと呼ばれます。診断された時点で遠隔転移のある乳がんはⅣ期に属し、根治 が不可能なため末期がんと呼ばれることもあります。しかし、乳がんは遠隔転移をしてからの経過が長いために、終末期を意味する末期という言葉はふさわしくないかもしれません。
「乳がん検診を受けたらしこりがあって、注射器で細胞を取ったところ『ステージ5』といわれました。これは末期なのでしょうか」という質問を受けましたが、ステージとはがんの進行度「病期」のことで、1から4までしかありませんので、たぶん、細胞診の悪性度分類で「クラス5」だったということでしょう。
乳がんの診断ではカタカナの分類を多く使いますので、患者さんは非常に混乱します。
ここで整理しましょう。
最近はなんでもカタカナでいうようになって、私のような年代には何がなんだかわからない。製薬会社がしきりに「コンプライアンス」というので、何がいいたいのかよく聞いていると、どうも「社内倫理規定」のことで、医者に過大な報酬を与えてはだめ、食事をごちそうしてはだめ、とかいいたいらしい。どうも「経費削減」的な話です。
せめて乳がんの診断ぐらいはカタカナを使わないでほしいものです。
乳がんと確定診断されたら、主治医はまず次のことを調べます。
この3つの要素によって分類されるのが「病期」です。しこりのことをtumor、リンパ節のことをlymph node、遺隔転移のことをmetastasisといい、それぞれの頭文字などを取ってTNM分類とも呼びます。
「術前には早期乳がんといわれ安心していたのに、術後の病理結果で進行がんといわれました。どちらを信じたらいいのでしょうか」という質問を受けます。
術前の病期判定より、術後の病理診断が正しいのです。病気の経過のことを「予後」といいます。予後に影響を与える因子のことを「予後因子」といいます。予後因子にはいろいろなものがありますが、その多くは手術をしないと判明しません。
術前にわかっているのは乳がんの大きさ、脇の下のリンパ節の転移の有無、遠隔転移の有無だけです。たまたまこの3つの因子は乳がんの予後に最も大きな影響を与えるために、これらを中心に病期を決定することになりましたが、実際はかなりいいかげんなものです。
たとえば乳がんの大きさは、測る人によって誤差が生じます。しこりの大きさを2cmとするか2.1cmとするかで病期が異なります。また術前に大きいと判断したがんを術後病理検査で実際に測ってみたら小さいことや、その逆はよくあります。
次に腋窩リンパ節転移。術前に手でふれて判断しますが、実際に手術でリンパ節を取ってみないと正確なことはわからないのです。術前の診察で腋窩リンパ節転移があるといわれた患者さんの27%には転移がなく、転移がないといわれた患者さんの39%には転移があったと報告されています。
なぜそんなにいいかげんな病期分類を行うのか。
本当の予後は、手術で取ったしこりやリンパ節を病理医が総合判定する「術後の病理診断」でしか知ることはできませんと話しました。
しかし乳がんと宣告された人の多くが「私のがんは治るのか?」「私はあとどれくらい生きられるのか?」といった予後、つまり自分の未来を知ろうとします。
そこで術前の乏しい情報をもとに病期判定をしているのです。ですから術前の病期で一喜一憂せずに、あくまで参考程度にとらえ、術後の病理結果による総合判定を冷静に待ちましょう。
早期がんという言葉を聞いたときの印象は、「治療が簡単そうで、命に別状はない」ということでしょう。また進行乳がんといわれたときは、「治療が困難で、もう手遅れ」と感じることでしょう。
確かにこれまではがんが小さければ早期がん、大きければ進行がんと呼ばれてきました。
しかし非浸潤がんのように乳管の壁を突き破る力がないために、乳管の中を右往左往して、気づいたときには乳腺全体に広がっているものも早期です。またどんなに大きくてもリンパ節に転移していないような「ゆっくりがん」もあります。
その一方で、小さながんだったのに、手術してみたら脇の下のリンパ節がぐりぐりに腫れていて、手術後抗がん剤にもほとんと反応しない、たちの悪いがんということもあります。
つまり大きさだけで早期かどうかを決めるのは早計です。さらに治療法の進歩によって、これまで進行がんだったものが早期がんと呼ばれるようになるかもしれません。
白血病の腫瘍細胞には「フィラデルフィア染色体」の異常が見つかることがあります。この染色体があるとたちが悪くて致命的である、と学生時代には習いました。ところがイマチニブ(グリペック)という分子標的薬が開発されて、ほとんど治るようになったのです。そのためフィラデルフィア染色体がある白血病はたちがよいとまでいわれるようになりました。
同じように乳がんの中にはHER2というがん遺伝子をもっているタイブがあり、遠隔転移しやすくたちが悪いといわれていました。しかしトラスツズマブ(ハーセプチン)という分子標的薬ができて、65%以上の確率で治るようになりました。今後も新しい薬の開発によって、進行がんも早期がんに変わるでしょう。