■乳がんの補助療法

補助療法のおかげで死亡率は減少している!

乳がん大国のアメリカでは、乳がんの罹患率(病気にかかる率)は増加しているのに、死亡率は減少し始めています。大きく取っても、小さく取っても、放射線をかけても、かけなくても変わらなかった生存率が改善したのは、マンモグラフィーによる検診が普及したこと、補助療法が普及したおかげだと言われています。

1.補助療法とは何ですか?

補助療法とは多くの場合手術以外の治療のことを言います。これはがんの治療が手術を中心に行われてきたことに関係しています。
局所療法
 局所のがんを取り除く治療で「外科療法(手術)」と「放射線療法」があります。局所療法の種類によって局所再発率は異なりますが、生存率は同じです。
全身療法 がんの遠隔転移を予防・治療する方法で「化学療法(抗がん剤)」と「ホルモン療法」と「ハーセプチン治療」があります。がんを根治する「根治治療」に対して、あくまで補助的な治療という意味で「補助療法」と呼ばれますが、実際にはこの補助療法によって生存率が改善されます。

2.主治医がよく「予後因子」という言葉を使いますが、それは何ですか?

「予後」とは、病気の経過とてん末のことです。がんではことに生存率を差します。
「予後不良」とは、将来、遠隔再発を起こし死に至る可能性が高いということです。
「予後因子」とは、たとえば腫瘍の大きさなどの予後と相関していると考えられる因子のことです。
乳がんの予後因子には次のようなものがあります。
腋窩リンパ節転移 最大の予後因子です。転移があればないよりも予後不良で、その数が増えるほど予後は悪くなります。
ホルモン受容体 乳がんの多くは女性ホルモンと結合するための受容体を持っています。これをホルモン受容体と言います。ところが中にはホルモン受容体のない(陰性)乳がんがあります。このタイプの乳がんは予後が悪いと考えられています。
腫瘍の大きさ2cmをこえると予後が悪くなることがわかっています。
組織学的グレード 病理医が組織を顕微鏡で観たときの「がんの顔つき」のことです。グレード1~3まであり、数字が大きくなるほど予後不良です。
年齢 科学的根拠には乏しいのですが、35歳未満は「若年性乳がん」といって予後不良です。
脈管浸潤 がんが周辺組織の血管、あるいはリンパ管に浸潤しているかどうかということです。がん細胞は、血液やリンパ液の流れに乗り遠隔転移を引き起こします。つまり、脈管浸潤の程度が大きくなるほど予後不良になります。
HER-2タンパクの発現 乳がん細胞の表面にある、増殖に必要なエサを取り込むための手(受容体)をいいます。この手を多く持っている細胞は持っていない細胞に比べて、エサをたくさん取り込むことができるので活発に増殖すると考えられています。

3.腋窩リンパ節に転移が見つかりました。補助療法は必要でしょうか?

術後の補助療法は、2005年ザンクトガレン乳がん国際会議で示された指針が参考になります。まず、今回の会議で大きく変わったリスク分類(図9-1)を参照してください。リンパ節転移の数やHER-2タンパクの発現、年齢などの因子によって全身転移のリスクは異なります。リンパ節転移は最大の予後因子で、リンパ節転移が4個以上あった場合はそれだけで高リスクとなります。そして、ホルモン感受性の有無と閉経しているかどうかが治療法を左右します。乳がん術後の補助療法について表9-1にまとめたので参考にしてください。
例を挙げてみると、リンパ節転移が1個で腫瘍の大きさが3cm、HER2の過剰発現なし、年齢41歳でホルモン感受性がある人では、リスク分類は中リスクとなり、ホルモン療法単独、あるいは化学療法+ホルモン療法という治療法が考えられます。
         乳がんのリスク分類(2005年ザンクトガレン乳がん国際会議より)(図)
                          図9-1 乳がんのリスク分類
                     (2005年ザンクトガレン乳がん国際会議より)

          表9-1 乳がん術後の全身療法指針(2005年ザンクトガレン乳がん国際会議より)
       乳がん術後の全身療法指針(2005年ザンクトガレン乳がん国際会議より)(図)
        OFS:卵巣機能抑制、LH-RHa:LH-RH アゴニスト、TAM:タモキシフェン、
        AI:アロマターゼ阻害剤、化療:化学療法(AC→ T、 FEC,CEF療法など)


4.補助療法をしない場合の予後(10年生存率または遠隔再発率)はどうなりますか?

①腋窩リンパ節転移陰性のとき
腋窩リンパ節移転がなくても、補助療法をしなければその約30%に遠隔移転が生じます(信頼度3)。遠隔再発は根治不可能なため、ほぼ死亡率と一致します。
●腫瘍の大きさが1cm以下で他の予後因子も良好のとき、10年遠隔再発率は10%未満です(信頼度3)。
●腫瘍径が1~3cmで他の予後因子も良好のとき、遠隔再発率は10~20%です。直径3cm以上または他の予後因子のいずれかが悪い場合の遠隔再発率は20~50%です。
②腋窩リンパ節転移陽性のとき
腋窩 リンパ節に転移があることは、それ自体が高リスクです。補助療法をしなければ10年生存率は25~48%です。リンパ節転移は1~3個の場合、補助療法をしなければ10年生存率は40~60%です。リンパ節転移4個以上の場合、補助療法をしなければ10年生存率は25%です。

5.術前の抗がん剤でがんが消えれば乳房を取らなくてもよいのでしょうか?

がんが本当に消えているかどうかは、その部分を取ってみないとわかりません。触診や超音波検査上でしこりが消えてもわずかな浸潤がんや非浸潤がんが残っていることもあるのです。将来的には抗がん剤と放射線療法だけの選択肢も生まれるかもしれませんが、現時点では標準的ではありません。

6.抗がん剤はいつ始めるべきでしょうか?

術後化学療法 多くの場合、手術の傷が治ったら術後4~6週間以内に治療を開始します。治療開始の遅れは患者さんにとって利益とはならないでしょう(信頼度4)。
術前化学療法 抗がん剤は術前・術後のどちらにやっても生存率に差はありません(信頼度1)。
放射線療法をするとき 放射線療法と同時に使用すると毒性が高まり(信頼度3)、放射線治療で化学療法が遅れると生存率が低下するというデータがあるので抗がん剤治療を先に行います。
ホルモン療法をするとき 抗がん剤とホルモン療法を同時にすると生存率が低下するという報告もあるので、抗がん剤が終わってからホルモン療法を行います。

7.どんな抗がん剤がありますか?

乳がんに使用される代表的な抗がん剤には次のようなものがあり、頭文字で表されます。
 シクロフォスファミド。アルキル化剤という種類でエンドキサンと呼ばれます。
 メトトレキサート。代謝拮抗物質という種類でメトトレキセートと呼ばれます。
 5-フルオロウラシル。代謝拮抗物質という種類で5-FUと呼ばれます。
 アドリアマイシン。アントラサイクリン系という種類です。
 エピルビシン。アントラサイクリン系という種類でファルモルビシンと呼ばれます。
 タキサン系という種類でタキソテールやタキソールと呼ばれます。

8.抗がん剤はどのように使われますか?

多剤併用療法 抗がん剤は単独で用いると効果が少なく副作用が強いので、いくつかの抗がん剤を組み合わせて、効果の増強と副作用の減少を図ります。これが「多剤併用療法」で、抗がん剤の頭文字を並べてCMF療法、CAF療法、CEF療法、AC療法、FAC療法、FEC療法のように表現されます。多くの場合は点滴で投与します。
休薬期間
 抗がん剤は一度にやると身体のダメージが大きすぎるので、休みを取りながら一定間隔で繰り返します。この間隔が短いと身体が回復しませんし、長すぎるとがんが息を吹き返す可能性があるので、適切な間隔が決められています。休薬期間も含めた1回分の治療を1「クール」または1「サイクル」と呼びます。AC療法、FAC療法、FEC療法ならば3週間に1回の投与が1クールです。CMF療法、CAF療法、CEF療法のように1回分の薬を2回に分けて投与する場合は、4週間のうち1週・2週の始めに投与して1クールです。


9.いろいろな化学療法がありますが、どれをどれだけやるのが一番よいのですか?

CMF療法 CMF療法をした場合はしない場合よりも生存率が高くなることが証明され(信頼度1)、1970年代半ばより標準治療となりました。CMF療法は4週間ごと6クール(6カ月間)やれば十分で、それ以上やっても効果は変わりません(信頼度1)。
AC療法 3週間ごと4クールのAC療法は、4週間ごと6クールのCMF療法と同じ効果であることが証明され(信頼度1)、80年代半ばよりCMF療法と並ぶ標準治療となりました。
アントラサイクリン系の治療 A(アドリアマイシン)やE(エピルビシン)の入った治療(CAF・CEF・FAC・FEC療法)は、CMF療法よりも生存率が高くなることが証明されたので、98年以降はアントラサイクリン系の治療が推奨されています。ただし、その差は5年生存率で3%程度です。
タキサン系の追加治療 タキソールやタキソテールという新しい抗がん剤を、効果の証明されているAC療法に追加して使ってみたところ、使わない場合よりも生存率が向上しました。現在、リンパ節転移の数が多いなど、予後の悪い患者さんに関してはアントラサイクリン系の治療に追加して使われるようになっています。
最近の傾向としては、CMF療法やAC療法はだんだん使われなくなってきて、アントラサイクリン系の治療、特にアメリカでは先述したACにタキサン系を加えた療法、ヨーロッパではFEC療法が中心に行われています。また、HER2陽性の患者さんの術後にハーセプチンとタキソールを使った場合、生存率が大きく向上した症例が報告されており、今後一般化すると考えられます。化学療法は効果と副作用のバランスをどう考えるかによって、選択が違ってきます。たとえがんに対する効果が高くても副作用がとても強く出るのではお勧めできません。主治医と効果と副作用についてよく話し合って決めた化学療法が、一番よいといえるでしょう

10.手術の前に抗がん剤を勧められました。どのような利点があるのでしょうか?

生存率 抗がん剤は術前・術後のどちらに投与しても生存率に差はありません(信頼度1)。乳がんの予後を左右する骨、肺、肝臓などへの遠隔転移に対しては早期に治療が開始されますので、理論的には術後に行うことと比較しても不利益はないと言えます。ただし、4~6カ月手術を待つことがストレスになることもあります。
腫瘍縮小効果 術前に投与すると腫瘍が小さくなることがあるので、乳房温存がより可能になります。さらに抗がん剤の効果を正確に評価できます。また最近、HER2陽性の局所進行乳がんの患者さんに対してハーセプチンとタキソールを術前に投与した場合、67%の腫瘍縮小率が得られたことが報告され、注目されています。

11.化学療法(抗がん剤)の副作用とその頻度は?

乳がんは化学療法が非常に有効で、近年では広く行われています。抗がん剤をたくさん使えば使うほど効果も大きくなりますが、副作用も強く現れます。主な副作用には次のようなものがあります。
吐き気 吐き気は下痢、疲労とともにしばしば起こります。吐き気の予防には制吐剤と呼ばれる薬(5‐HT3受容体拮抗剤)とステロイド剤の併用が効果的です。
脱毛症 CMF療法で約40%、CAF・CEF・AC療法ではほぼ100%です。予防法は確立していません。治療が終了すれば回復しますので、それまでの間ヘアーウィッグ(かつら)やバンダナなどをうまく利用するとよいでしょう。
白血球減少 体の抵抗力が落ちて感染症にかかりやすくなったり、血小板減少により出血を生じることもあります。発熱やのどの痛み、あるいは歯茎からの出血・皮下出血などがみられたら、すぐに医師に連絡してください。対処法として、白血球を増やす薬(G-CSF製剤)や細菌を退治する抗生剤が用いられます。1~2%は入院が必要になります。
一生の無月経 若い人ではやや少ないのですが、それでも平均して約70%の方が閉経します。出産希望の方は抗がん剤の治療前に主治医とよく相談すべきです。
体重増加 CMF療法で14%。静脈血栓症 2~7%。
心臓障害 アントラサイクリン系で1%以下で生じます。

12.抗がん剤の副作用が怖いので薬の量を減らしてもらうことはできますか?

化学療法は可能な限り標準的な投与量を守るべきです(信頼度1)。
CAF療法を用いた試験では、標準投与量以下では効果が小さくなることが示されました(信頼度1)。CMF療法の経過観察で効果が表れたのは標準投与量の85%以上の投与を受けた者だけでした(信頼度1)。逆に多く使えば効果が高まるのかという疑問がありますが、標準投与量以上の大量化学療法については、否定的な結果が報告されています。抗がん剤治療を受ける際には、抗がん剤の量を確認することが重要です。たとえば、FEC療法の場合、日本ではE(エピルビシン)を75mg/㎡(体表面積あたり)投与するのが一般的ですが、50~60mg/㎡と少ない量を投与する施設がある一方で、100mg/㎡投与する施設も増えつつあります。

13.ホルモン療法にはどのようなものがありますか?

乳がんの約3分の2は女性ホルモンを栄養にして成長します。そのような乳がんはホルモンを取り込む受容体を持っています(ホルモン受容体陽性)。そこでホルモン受容体陽性乳がんのうち、遠隔再発の危険性が高いものに対してホルモン療法が行われます。ホルモン療法には次のようなものがあります。
永久的卵巣機能抑制 卵巣切除や卵巣への放射線照射によって女性ホルモンの分泌を抑制すると、閉経前の乳がんに対し遠隔再発の予防や生存率の向上に効果があることが証明されています(信頼度1)。効果が永久的で治療費は安くあがります。
一次的卵巣機能抑制 卵巣機能を刺激する下垂体ホルモンを注射で抑制します。LH-RHアゴニストと呼ばれるゾラデックスを月に1回、またはリュープリンを3カ月(あるいは1カ月)に1回、2~5年間皮下注射します。閉経前の転移性乳がんに対し卵巣切除術と同等の反応率を示しています。効果は一次的ですので使用を中止すれば妊娠も可能でしょう(ゾラデックスは針が太いので、打つときは局所麻酔をすることがあります)。
抗エストロゲン剤 女性ホルモンと似た構造のこの薬は、乳がんのホルモン受容体に結合し、乳がんが女性ホルモンを取り込めなくします。ノルバデックス(一般名タモキシフェン)またはフェアストンを1日1回5年間内服します(1日2回のこともあります)。
アロマターゼ阻害剤 アロマターゼという酵素を阻害することにより、女性ホルモンの分泌を抑制します。閉経後乳がんの患者さんが対象になります。アリミデックスまたはアロマシンを1日1回、5年間服用します。ノルバデックスより効果が高いというデータが報告されつつあります。

14.タモキシフェン(商品名ノルバデックス)はどのような薬ですか?

ホルモン受容体陽性乳がんに用いる 乳がんの遠隔転移に対する反応は、ホルモン受容体が陽性であれば50%、陰性ならば10%未満です(信頼度1)。 投与期間は5年間 投与期間が2年間の場合は5年間より効果が少なく(信頼度1)、10年間の治療でも5年間の治療以上の効果は望めませんでした(信頼度1)。
タモキシフェン単独治療 タモキシフェン単独でも遠隔再発率と生存率に改善が見られたという報告はあります。しかし、化学療法単独のほうがはるかに大きな効果が証明されているため、高リスクの乳がんには化学療法を標準的治療とすべきです。低リスク乳がんや閉経後乳がんに単独で使われることがあります。また70歳以上に対し有効性の確認された補助療法はタモキシフェンしかないため、補助療法が必要な場合は単独で使用されます。
化学療法後に追加 化学療法にタモキシフェンを追加することによって、さらなる効果が期待されます。化学療法が行われるホルモン受容体陽性乳がんにはしばしば追加されます。
卵巣機能抑制との併用 卵巣に対する手術や放射線照射または注射によって卵巣機能を抑制しても、脂肪の中からもわずかながら女性ホルモンが出ていて乳がんの栄養になります。そこでタモキシフェンを併用すればさらに効果が高まります。

15.タモキシフェンにはどのような副作用がありますか?

ほてり・のぼせ 約20%。
うつ病 定かではありません。
静脈血栓症 わずかに増加1・3%(信頼度1)。
子宮体がん 対照群0・02%に対し年間0・16%とわずかだが増加(信頼度3)。
白内障 閉経後の患者さんで化学療法を同時に使用するとリスクが増大。

16.ホルモン療法による更年期障害がつらいのですが何か治療法はありますか?

閉経前のホルモン受容体陽性乳がんでは、女性ホルモンを抑えて再発予防をするために卵巣機能抑制剤とタモキシフェンの併用療法が勧められます。このとき、完全な閉経状態になります。また抗がん剤で多くの女性が閉経します。こうした急激な閉経は、徐々に女性ホルモンが減っていく自然閉経と比べて、更年期症状が強く出やすいのです。主な症状は、急激なのぼせ、寝汗、不眠、関節痛、手足の冷え、憂うつで、日常生活を困難にすることさえあります。そこで以下の治療が行われます。
ホルモン補充療法(HRT) 乳がんの治療目的では行われません。更年期障害の症状を軽減したり、骨粗しょう症を予防する目的で行われますが、米国のWHI(Women's Health Initiative)が93年から98年までに約1万7000人を対象に行った追跡調査では、エストロゲンとプロゲスチンの組み合わせによるホルモン補充療法を受けたグループは受けなかったグループより、乳がんリスクが1・26倍高くなることが報告されています。また、脳卒中、冠動脈疾患、静脈血栓症の発症リスクが高くなることも確認されており、ホルモン補充療法を受ける場合は慎重に検討する必要があります。
漢方薬 症状や体質に合わせて薬を選択しますが、標準治療のようなエビデンスはありません。
抗うつ剤(SSRI) 卵巣機能抑制による更年期症状に有効という報告もあります。
ホルモン剤の変更 現在日本で乳がんに使われるホルモン剤で有効性が確立しているのはタモキシフェン(ノルバデックス)、トレミフェン(フェアストン)、アナストロゾール(アリミデックス)、エキセメスタン(アロマシン)の4つです。この範囲で変更しても著しく効果が落ちることはありません。

17.タモキシフェンは子宮体がんになると聞き心配です。中止して検査を受けるべきでしょうか?

タモキシフェンで子宮体がんの危険性が上がるというのは事実ですが、それは1000人に1人のレベルです。逆にタモキシフェンで乳がんの再発を抑えられるのは、10人に1人のレベルです。100倍の利益をとるか、100分の1にあたる危険性のために利益をあきらめるかは、あなたの判断です。タモキシフェン内服中だとしても、子宮体がん検査を行う意義は示されていませんし、苦痛を伴いますので、症状がないのであれば余計な検査は受けないほうがよいでしょう。なお、タモキシフェンには次のような副産物もあります。
●対側乳がんの減少(対照群2%に対し1・3%)(信頼度1)
●血管疾患死亡の減少(信頼度1)
●骨粗鬆症の予防

18.抗がん剤の治療費はいくらかかりますか?

1回ごとの自己負担分の目安(体重50kg、身長155cmの人の場合)です。体重や体表面積により多少変動があり、制吐剤や白血球を増やす薬を併用したときは当然これよりも高くなります。
CMF療法 1万1000円。
AC療法 1万5000円。
タキソール 4万2000円。ウイークリータキソール80mg/㎡の場合2万5000円。
タキソテール 3万5000円(60mg/㎡の場合)。
ハーセプチン 初回3万5000円。2回目以降2万円。
ホルモン療法注射 リュープリン1カ月製剤で1回分1万7000円、3カ月製剤で1回分3万円。ゾラデックス1回分(1カ月)7000円。
ホルモン療法内服薬 ノルバデックス30日分4000円。フェアストン30日分7000円(処方箋料と薬局での支払いの合計です。まとめて処方してもらえば処方箋料が安くなります)。

ワンポイントアドバイス
(補助療法をするかどうかは自分で決めよう!
補助療法を行うかどうかは、次の3つの因子によって決定します。
●補助療法をしない場合の予後(治療の経過)がどうなるか?
●補助療法によって予後がどの程度改善されるのか?
●補助療法に重大な副作用があるか?その頻度は?
ほとんどの乳がんは遠隔転移を起こすと根治は不可能です。そのため遠隔転移の予防のための補助療法が大切なのです。遠隔再発率が高い乳がんで、補助療法の効果が高く、その副作用の頻度が低ければ誰もが補助療法を受けるでしょう。その反対に、遠隔再発率が低いにもかかわらず、補助療法の効果が低い場合や、重大な副作用がある場合は、誰も補助療法を受けないでしょう。 ここで一例をあげて説明しましょう。補助療法をしない場合の予後は、腋窩リンパ節転移、ホルモン受容体、腫瘍の大きさ、組織学的グレード、年齢、HER-2、そして脈管浸襲によって決まると先述しました。例えばリンパ節転移なく腫瘍の大きさが3㎝以上のときの10年遠隔再発率は20~50%です。この方が補助療法を行えば10年遠隔再発率が4分の1改善することが判明しています。ということは遠隔再発率を20%としたときには、
●補助療法によって命が助かる人の割合は、20%の4分の1の5%。
●補助療法をやっても助からなかった人の割合は、20%の4分の3の15%。
●残りの80%は補助療法をやらなくても遠隔再発しなかった人達です。
つまり「やって得した群」は5%、「やって損した群」は95%です。遠隔再発率を50%としたときには、「やって得した群」は50%の4分の1で12・5%、「やって損した群」は87・5%です。この5~12・5%の「やって得した群」の確率と、重大な副作用の頻度(例えば不妊になる確率が70%)を考え合わせて、あなたが補助療法に魅力を感じるかどうか、それが「補助療法をするかどうか」の決め手となるのです。