■乳房再建

乳房再建の医師選び、方法選びは慎重に!

マンモグラフィ

ナグモクリニック 総院長 南雲 吉則 

医学博士/日本乳癌学会認定・乳腺専門医
ナグモクリニック > www.nagumo.or.jp

乳がんで失われたバストを取り戻す手術を乳房再建と言います。再建には2つの方法があります。自分の組織を使用する筋皮弁法と、人工乳房(インプラント)を使うインプラント法です。筋皮弁法には背筋を使う方法と腹筋を使う方法があります。インプラント法にも単純に挿入する方法と皮膚を引き伸ばしてから挿入する方法があります。挿入するインプラントにもシリコンジェルやコヒーシブシリコンジェルが入ったものがあります。再建する時期にも乳腺全摘術と同時に再建する場合とあとで二期的に再建する場合があります。全摘術にも通常の胸筋温存乳房全摘術もあれば、乳頭・乳輪を残す皮下乳腺全摘術があります。どの方法をいつ受けるかを決めるだけでも一苦労です。さらに大事なのは医師選びです。

*お知らせ*
2013.12更新
以下が薬事承認され、人工乳房(インプラント)による乳房再建が公的健康保険適用
になりました
 ・2012年9月: 組織拡張器法
 ・2013年7月: 米国アラガン社製、人工乳房(インプラント・ラウンド型/丸型)
 ・2014年1月: 米国アラガン社製、最新タイプの人工乳房(インプラント・アナトミカル型/しずく型)「より自然な形のバストの再建が可能」
乳がん手術と同時に行う「同時再建(一次一期再建)」も保険適用
  が可能です。
今までより少ない自己負担金で、乳がんによって失われたバストを再建
できるようになりました
※詳しくはナグモクリニック各院までお問い合わせください。
1.乳房再建にはどんな方法がありますか?

再建の方法には、大きく次の2つがあります。
①筋皮弁法 患者さんの皮膚・皮下脂肪・筋肉を移植する方法です。背筋と腹筋を用いる方法があり、それぞれ「広背筋皮弁」「腹直筋皮弁」と呼ばれます。皮膚が足りているときは筋肉と脂肪だけ移植します。これを「筋脂肪弁」といいます。②インプラント法(図6―2参照)胸の筋肉の下に人工乳房(インプラント)を入れる方法を「インプラント単純挿入法」といいます。皮膚に余裕がないときはティシュー・エキスパンダー(組織拡張器)と呼ばれる大きめのインプラントを入れ、皮膚が伸びてから通常のインプラントに入れ替える「組織拡張法」を行います。
※ナグモクリニックの乳房再建は、「インプラント法」をメインとしています。当院では組織拡張器(エキスパンダー)を使わずに1回の手術で再建ができる「乳房再建一回法(二次一期再建)」が可能です。日帰り施術です。また、乳がん切除と同時にインプラント(人工乳房)を直接挿入して再建する方法を一次再建「同時再建」と言います。もっとも身体や費用の負担が少なく、一番希望される方が多い方法です。「同時再建」であればバストの喪失を感じることなく、目を覚ましたらすでにバストがある状態ですから、心理的負担は大幅に軽減されるでしょう。どちらも公的保険が適用できます。詳しくは「ナグモクリニック」までお問合せ下さい。⇒ (南雲医師/談)

2.筋皮弁法の問題点は何ですか?

壊死 筋皮弁は背中やお腹の筋肉を剥がしますが、根元は切り離さずに血流を保ちます。しかし移植した皮膚や皮下脂肪は、ときには血の巡りが悪くなって腐ることがあります。これを「壊死」と呼びます。壊死した組織は外来で切り取られ最終的には治りますが変型の原因になります。
ツギを当てたような外観 移植した皮膚は乳房の皮膚とは異なりますので、ツギを当てたように見えます。
左右対称にならない 乳房が大きく取られているとき、対側の乳房が大きいとき、医師の技術が未熟なとき、対称な形にはならないでしょう。
採皮部の問題 広背筋皮弁の場合は、背中に大きな斜めの傷が付き、皮膚がへこみます。腹直筋皮弁なら、お腹に縦または横の大きな傷が付き、腹筋の力が弱くなります。ときには下腹部にヘルニア(脱腸)が生じます。 筋皮弁法を推奨する医師はこれらの問題をほとんど気にしませんが、患者さんは気にします。

図6-2 インプラント法

 人工乳房(インプラント)による乳房再建が保険適用になりました

◆「ナグモクリニックの二次再建は、日帰りで可能です」

◎ インプラント単純挿入法(二次一期再建)

 ⇒ 

この方法は、入院の必要もなく 日帰り手術が可能です。ただし人工乳房(インプラント)を被う健康な胸筋と十分な量の皮膚がある場合に限られます。脇の下を小さく切開し、胸筋の下につくった空間にインプラントを挿入します手術は1~2時間(なれた医師なら20分)で終わります。全身麻酔下で手術が行われることが多いのですが、私は硬膜外麻酔をお勧めします。

組織拡張器挿入法(二次二期再建)

 ⇒ 

胸筋は残っていても十分な皮膚がない場合には、皮膚を引き伸ばしてから再建を行います。脇の下から、腹筋の下に組織拡張器と呼ばれる風船状の袋を挿入します、通常は外来で水を注入しながら風船を徐々にふくらましますがあとになるとふくらみにくいことがあります。そこで私は手術のときに一度ふくらます方法を提唱しています。3ヶ月後、皮膚が十分に伸びて、インプラントの周囲に被膜によるポケットが完成したら、組織拡張器を抜去しインプラントを挿入します。

乳房再建一回法 (二次一期再建) 保険適用

これまでの組織拡張法は皮膚を反対側の乳房より大きく拡張するために 直後の痛みが強く、洋服の上からでもふくらみが見えてしまい人目も気になりました。
また3ヶ月から半年後に入替が必要で、2倍の費用がかかりました。つまり身体的にも精神的にも、時間的にも、経済的にも負担が大きかったのです。そのため多くの女性は再建をあきらめていました。
そこで新たに考案された再建方法が「乳房再建一回法(二次一期再建)」です。アンダーバストを小さく切って、反対側の乳房をかたどったインプラント(シリコンバッグ)を挿入して終わり。直後から対照的な乳房がよみがえります。この女性は反対側の豊胸術も行っていますが、痛みも少なく、入院も不要で、費用も1回分ですみます。筋皮弁法や組織拡張法に尻込みしている方は、「ナグモクリニック」までご相談ください。⇒(南雲医師/談)

3.乳房用インプラントとは何ですか?
人工乳腺(インプラント)/イメージ画像

シリコン製の半球形の袋の中に、シリコンジェルが入っています。手術でバストに挿入することによって乳房の形をつくります。
豊胸術や乳房再建に使用されます(表6―1参照)。※医師により以下のような色々な呼び方をしています。
インプラント :身体に埋入する人工臓器をインプラントといいます。
プロテーゼ、プロステーシス :身体の一部をかたどったものの意味です。
人工乳房 :乳房用インプラントの俗称です。
シリコンバッグ :これも俗称です。シリコン製の袋という意味です。
人工乳腺バッグ :これも上記と同じ俗称です。

4.インプラント法の問題点は何ですか

感染 人工物は感染に弱いのが欠点です。十分に配慮していてもときに感染を起こします。このときはインプラントを抜去しないと感染は収まりません。
破損 どんなに丈夫につくられていても、ときに破れることがあります。シリコンジェルは身体に吸収されないので破損したかどうかは超音波検査をしないとわかりません。
発がん性・アレルギー性 ありません。
被膜拘縮 インプラントの周りにできた膜が硬くなることをいいます。これが一番頻度の高い問題です。

     インプラントの種類(図)
               表6-1 インプラントの種類

5.被膜拘縮についてもっと詳しく教えてください。

生体は、体内に入り込んだ異物から身を守るために、異物の周りを瘢痕(傷跡)組織による膜で被います。これを「被膜」といいます。薄くて広い被膜が形成されれば動きがあり柔らかい乳房が再建されます。厚くて狭い被膜のときは、インプラントが締め付けられ硬い乳房になります。これを「被膜拘縮」と呼びます。 乳がん手術による傷や引きつれが強いときや、放射線がかかっているときは被膜拘縮が起きやすくなります。被膜拘縮を予防するためには以下のような注意が必要です。
・医師の選択 技術と経験のある医師を選ぶこと。これが一番大切です。
・衛生管理 感染や炎症を起こすと拘縮しやすくなります。
・組織拡張法 まず組織拡張器を入れて大きな被膜をつくって、あとから適当な大きさに入れ替えます。 (保険適用)
・再建の時期 乳腺全摘術で傷ついた組織に同時再建するには技術が必要です。外科医から再建を進められても二期再建にしましょう。

6.どの再建法を選べばよいのでしょうか?

いずれの方法を用いるかはあなたが受けた乳房切除の術式によります。ハルステッドの手術 かつて「定型的乳房切除術」と呼ばれたこの術式は、胸筋をすべて切除するため組織欠損が大きくインプラントだけでは再建ができません。組織量の多い腹直筋皮弁が用いられます。
胸筋温存乳房全摘術 皮膚の欠損はありますが、胸筋が温存されているため、皮膚と乳房のふくらみだけを補充すればいいのです。筋皮弁法では広背筋皮弁を用いることが多いようです。インプラントを用いる場合は、組織拡張法によって皮膚を引き伸ばしてからインプラントに入れ替えます。
皮下乳腺全摘術 乳頭・乳輪やしこり直上の皮膚を温存し、乳腺だけを全摘する方法です。皮膚を補充する必要がないため、インプラント法で再建が可能です。自分の組織を用いるときは筋脂肪弁を使うでしょう。同時再建に向いています。
乳房温存療法 そもそも乳房温存とは乳房の形を美容的に温存することを意味しているのですから、その術後に再建が必要になること自体が矛盾しています。しかし、乳房温存療法が普及するに従って、ひどい変形をきたした例をよく見ます。放射線が照射してあるために再建はきわめて困難です。乳房温存療法後に局所再発し全摘となった場合も、同様に再建は困難です。

7.乳房再建を希望していますが主治医はもっと待ったほうがよいと言いますが?

これまで乳房再建の適応は「早期乳がん」「根治手術後長期間経過例」「遠隔再発がない例」といった条件がありました。しかし、再建しても「局所再発の発見の妨げとはならない」「局所再発率は変わらない」「生存率は変わらない」ということが科学的に証明されたため、今では「いつでも」「誰でも」「どんな乳がんでも」再建してよいと言われています。10年後に再建されて、失われた乳房が戻っても、失われた人生は戻りません。再建したいときがするときなのです。


8.同時再建と二期再建とどちらがよいのでしょうか?

乳房再建はその実施時期によって同時(即時)再建と二期再建に分けられます。同時再建は乳腺全摘術と同時に乳房形態を回復できるため理想的ですが、以下の場合には二期再建が望ましいでしょう。
局所再発のおそれがある場合
 肉腫や局所進行乳がん、炎症性乳がんでは局所再発率が高いため、術後一定期間を経てからの二期再建が望ましいでしょう。
皮膚感染症のある例 インプラントは感染を生じやすいため、乳がんまたは他の原因によって術野に感染がある場合は二期再建とすべきです。

9.再建を希望するときは外科医に何を頼めばよいのでしょうか?

どのような乳房切除術をするかによって再建術の方法や難しさが異なります。そこで再建を希望する場合は以下のような注意が必要です。
温存できる場合 再建した乳房がどんなにきれいにできても、もともとのバストにはかないません。再建できるからといって必要のない全摘は避けるべきです。
全摘をしなければならないとき 乳腺の全摘をしなければならないときも、乳頭・乳輪や皮膚を極力温存して、傷も最小限にしてもらいましょう。
再建をするとき 筋皮弁は身体の他の部位に新たな傷と筋力の低下を生じます。インプラントならそれがありません。ただしインプラントに対する十分な技術と経験がある医師がいないときは、再建を受けるべきではありません。

10.二期再建はいつ受けるべきでしょうか?

術後6カ月以上を経てからが好ましいでしょう。その理由は、 以下の2つです。
●手術による炎症や組織液の貯留が完全に消退するのには約6カ月かかるため
●術後化学療法を行う場合、約6カ月の期間を要しますが、化学療法中は出血しやすく感染を起こしやすいためです。

11.乳頭の再建にはどのような方法がありますか?

対側乳頭の移植 対側の乳頭の先端を取って、再建乳房に移植します。これから授乳を希望する人や、乳頭が小さい人には適しません。
局所皮弁法 再建乳房の皮膚を切って丸めて乳首の高まりをつくります。皮膚の緊張が強いときや、放射線がかかっている皮膚では、すぐに平らになってしまいます。

12.乳輪はどのように再建されますか?

植皮法 太ももの内側の黒ずんだ皮膚を植皮します。技術の差によって、仕上がりが大きく違います。
入れ墨法 対側の乳輪に似た色を入れ墨します。まずは薄い色を小さめに入れて、足りないときはあとで追加します。

13.再建した乳房はお椀型になると聞きました。反対側の乳房が垂れているときはそちらも治さなければいけないのでしょうか?

乳房再建は左右対称な状態をつくることが目的です。しかし再建乳房は皮膚が足りないことが多いので垂れることはありません。対側の乳房がお椀型ならいいのですが、しぼんだり垂れ下がったりしているときは再建乳房に合わせて治す必要があります。
豊胸 対側の乳房が小さいときやしぼんでいるときは、インプラント(シリコン性の人工乳腺)を挿入してお椀型のバストをつくります。
吊り上げ術 乳頭の位置が垂れ下がっているときは、乳輪周囲の皮膚を切り取って、乳頭を吊り上げます。
縮小術 乳房が大きすぎて下がっているときは、乳腺と皮膚を大きく切除して小振りのバストにします。

14.医師によって技術の差があると聞きました。よい医師を探す方法を教えてください。

●まず再建を誰が担当するのか確認してください。外科医が見よう見まねで再建をすることが増えています。形成外科の経験がない医師ならば断るべきです
●担当医が書いた再建の論文をもらってください。多くの経験のある医師ならば必ず論文を書いています。論文も書いていない医師ならば断るべきです。
●論文の中に載っている症例写真は、最も出来のよいものを選んでいるはずです。その写真の出来が悪ければ、実際はもっと出来が悪いでしょう。
●筋皮弁法とインプラント法のどちらを勧めるのか聞きましょう。どちらも得意な医師はいません。もしいずれかを勧められたら、相対する方法が得意な医師を紹介してもらって、双方の意見を聞きましょう。私(南雲)の専門は、人工乳房(インプラント)を用いた乳房再建術です。


ワンポイントアドバイス
再建の治療費はどれくらいかかりますか?
これまで、乳房再建に健康保険が効くのは、乳がん手術によって皮膚が足りないときや、腕が上がらないといった機能障害があるときに限られ、美容目的では保険は効きませんでしたが、2012年9月に組織拡張器法が保険適用となったのを皮切りに、2013年7月に米国アラガン社の人工乳房(インプラント・ラウンド型/丸型)が、2014年1月からは自然な形のバストを再建できる同社の最新タイプの人工乳房(アナトミカル型/しずく型)が保険適用になりました。これにより、人工乳房を用いたすべての乳房再建が公的保険の対象となりました。(※傷の縫い直し、乳輪の再建は自費になります)また、医療費控除の対象となり、税率分が還付されることが多い(ならないこともある)ので、確定申告のときに領収書を持って税務署に相談に行きましょう。ちなみに私のクリニックでの再建の費用をご紹介します。詳しくは各院にお問い合わせください。  
同時再建(一次再建)・二次再建 全額保険が適用されます。高額医療制度を利用すれば、一般所得者の場合、自己負担金は8万5000円です。
傷の縫い直し 12万円。
乳頭再建 保険が効きますので自己負担は2万5000円。
乳輪の再建 入れ墨をします。1回が5万円で、2回の治療が必要な場合もあります。※当、施術費は当院にて再建をされた方を対象とします。
詳しくはナグモクリニックまでお問合せ下さい。 

乳がん・乳房再建コラム

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

よりよく生きる

「重要臓器」という言葉があります。生命維持に必要不可欠な臓器のことです。

脳、脊髄、心臓は一部が傷ついても大きな障害となります。
肺や肝臓は大きな臓器なので半分取っても生きていくことはできます。しかし全摘はできません。
食道、胃、大腸、膀胱は全摘できますが、ほかの臓器の一部を移植する再建や、人工肛門、人工膀胱が必要です。
乳房は生命維持に不可欠な臓器ではありません。運動機能にもかかわらないため、これまでは重要臓器扱いされずに取ったら取りっぱなしでした。

確かに「美容」は、ただ生きていくためには不可欠ではありませんが、よりよく生きるためには不可欠です。
乳がんは大きく取っても小さく取っても生存率(寿命)が変わらないということが海外の研究で明らかになってから、日本でも乳房温存療法が乳がん治療の第一選択になりました。

それから20年以上の歳月が流れました。何十万人もの女性が温存療法を受けました。
その後、再発もせず結果に満足している方は数多くいます。その一方で温存とは名ばかりの著しい変形をきたしてしまった方もいます。また何年後かに局所再発して全摘した方もいます。これまでの温存一辺倒の考え方を改める時期がやってきたのです。
無理な温存は避けなければならない。しかし全摘のままはどうしても受け入れられない。そういう方のために、乳房再建が注目されるようになりました。

再建の方法には自分の組織を移植して再建する自家組織法と、シリコン製の人工乳腺を入れるインプラント法があります。
全摘手術と同時に再建するのが一次再建(同時再建)と、あとになってから再建するのが二次再建です。
インプラントや自家組織を用いて、一気に再建するのが一期再建、組織拡張器(エキスパンダー)を入れて2回に分けて再建するのが二期再建(組織拡張法)です。

時期や方法によって呼び方が変わるのです。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

自家組織かインプラントか

昔は歯が抜けたら入れ歯でしたね。でも最近は歯ぐきの中に金属製の土台を埋めて、土台がしっかりしたら人工の歯を植える方法が盛んに行われています。これを「インプラント法」といいます。

インプラントとは身体に埋め込む医療器具の総称です。心臓のペースメーカーや人工関節、白内障の治療に使う眼内レンズなどもみんなインプラントです。

豊胸や乳房再建のときに胸に入れるシリコン製の人工乳房もインプラントといいます。

外側はシリコン製の袋で、膜が3層構造になっていて、破れにくく漏れにくく、もし破れても中はコヒーシブジェルと呼ばれる「グミ」のようなゼリーで、身体にしみ込みにくいために安全です。

豊胸に使うインプラントはおまんじゅうを薄べったくしたような形(ラウンド)で、軟らかい(ソフトコヒーシブ)のが特徴です。もともとのとがったバストの下に入れるので、とがっている必要はないのです。表面がつるつるしているスムースタイプはマッサージをしないと硬くなるため、最近は表面がざらざらしていて、マッサージしなくても硬くならないテクスチャードタイプが主流です。

再建に使うインプラントはとがって(アナトミカル)いて、腰があります(ハードコヒーシブ)。全摘で平らになってしまった傷あと組織の中に入れるので、とがっていて硬くないときれいな形にならないからです。すべて表面がざらざらしたテクスチャードタイプです。

もしあなたが生まれつきバストが小さくて豊胸をするとしたら、背中やおなかにも傷をつけて自家組織を移植することはあり得ないでしょう。何日間も寝たきりで、何週間も入院するような手術を受けるでしょうか。

同様にもしあなたが乳がん手術を受けても、皮下乳腺全摘術なら、状況は豊胸術と変わりません。やはりシリコンできれいに再建できるでしょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

シリコンインプラントの寿命

近年、日本車のリコールがよく報道されています。これまで日本の車には安全神話があり、それを支えていたのは科学を駆使した最新テクノロジーと徹底した品質管理です。しかし車も人間が作ったものですから絶対に壊れないということはいえません。命あるものが必ず死ぬように、形あるものは必ず壊れるのです。また人それぞれ寿命が異なるように車ごとに部品ごとに寿命は異なります。どんなに安全な車でも毎年の車検を行い、異常が発見されたら交換が必要です。

乳房インプラントをはじめ眼内レンズや人工関節、心臓の人工弁といった人工臓器も人体に用いられる永久埋没材料ですから、安全な材質が用いられています。また品質管理においても厳しい耐久性試験を経たものが出荷されています。メーカーは自社の製品がいかに安全で耐久性にすぐれているかデータを提示しています。しかし私はメーカーの説明をうのみにせずに、すべての患者さんに検診を推奨してきました。 その結果わかったことは、たとえ数年でも破損はありうる、しかしその確率は低い、たとえ破損があってもインプラントは非吸収性・低刺激性の素材なので検診さえ受けていれば周囲にしみ込むことはほとんどないということです。

「私のインプラントはあと何年もちますか」と、よく聞かれます。今使われているシリコンは最新式のものですので、まだ長い歴史はありません。平均寿命のことでしたら、これから何十年も検診を続け、すべてのインプラントが破損した時点で平均値を出さなければなりません。それではいつになるかわかりません。5年破損率なら出せます。5年たったときに、どれくらいのインプラントが破損しているかです。あるメーカーの調査では、最初の3年間は破損が見られなかった、それからは年に1%の破損が発見されたといいます。それなら、5年破損率は2%でしょう。10年ごとに交換しないといけないという医学的報告は一度もありませんのでご安心を。

再建手術や豊胸手術を受けた方から、よく「術後やってはいけないことは何か」と聞かれます。確かにスポーツで強い衝撃を与えたり、うつぶせでマッサージしたりすることはインプラントに負担をかけるでしょう。しかしよりよい人生を得るために手術をしたのですから、行動に制限を加えるべきではないと思っています。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

被膜拘縮

真珠貝の中に石粒が迷い込むと、真珠貝は異物から身を守ろうとして粘液を出して、貝殻の内側と同じ保護膜を作ります。これが「真珠」と呼ばれます。真珠膜がどんどんできる貝は元気な貝ということです。 まったく同じようにシリコン(正確には乳房インプラントといいます)が身体に入ったとき傷あと組織による被う膜、被膜ができます。被膜が広くてインプラントが小さければ自由に動き回れるので軟らかな乳房ができます。ちょうど被膜という壁紙に被われた快適な部屋ができたようなものです。

しかし被膜が狭くて大きなインプラントが入っていると硬くなります。拘えられて縮むと書いて拘縮、被膜拘縮といいます。

広い被膜を作るために筋肉の下をどんなに大きくはがしても、人間の身体はどんどん傷を治そうとしますので、回復力、創傷治癒能力が高いほど、被膜はどんどん狭くなっていきます。そこで拘縮を防ぐために以下の工夫がされています。

ざらざらしたインプラントを使う…インプラントには表面がつるつるしたスムースタイプと、ざらざらしたテクスチャードタイプがあります。テクスチャードタイプのほうが表面積が広いので、被膜も広くなります。広いお部屋ができるので硬くなりにくいのです。

マッサージをする…手術直後からマッサージでインプラントを動かしてはがしたところがくっつかないようにします。スムースタイプのときは有効です。しかしテクスチャードタイプはざらざらして摩擦が多いので通常マッサージはしません。また同時再建のときは乳腺を取ったあとの皮膚と筋肉がくっつくまでマッサージはしないほうがいいでしょう。

組織拡張器を入れる…エキスパンダーというシリコン製の風船を入れて、ときどき水を注入しながら皮膚を伸ばします。半年かけて大きな被膜ができたら、適当な大きさに入れかえます。ただし2回の手術が必要ですから、経済的、肉体的、時間的負担が倍増します。何よりふくらましているときはかなり人目を引くでしょう。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

乳房再建一回法

妊娠すると十月十日の間におなかの皮膚と筋肉はどんどん引き伸ばされます。普通だったら裂けてしまうと思うでしょうが、おなかの筋肉はハンモックのように交差した網目になっています。腹直筋も真ん中が観音開きのように開いて減圧になります。その結果、筋肉は無傷のままあそこまで伸びるのです。

妊娠線のことを「皮膚線条」といいます。思春期のときに急に太るとできる「肥満線」、授乳のときにできる「授乳線」も皮膚線条のひとつです。あれは皮下脂肪が急激に増加して皮膚との間にずれが生じた結果で、太らなければできないのです。それが証拠に豊胸術では胸の筋肉の下にいきなり600ccものインプラントを入れることがありますが、皮膚線条は生じません。

全摘で皮膚を大きく切り取ったら、皮膚が足りなくなります。

背中やおなかから皮膚や脂肪や筋肉を移植すると、自家組織を採取したところに大きな傷ができます。

そこで風船状の組織拡張器を挿入して、半年かけて皮膚が伸びたところでインプラントに入れかえれば、垂れた乳房が形成できるのではないかと期待されてきました。私も22年間その夢を追い続けてきましたがそれは幻想だったのです。

妊娠であれだけ長期にわたって極度に引き伸ばされても、出産後は速やかにもとに戻るように、組織拡張器を抜いたあとは速やかに平らになります。丸いインプラントを入れればお椀を伏せたような丸い乳房しかできませんでした。最近はアナトミカルというとがったインプラントもありますが、組織拡張器で大きい部屋をつくったあとにこれを入れると、回転してしまうのです。

皮下乳腺全摘術のように皮膚が全部残されているときは、そんなに皮膚を引き伸ばす必要はありません。そこで反対側の乳房と同じ大きさ、形のアナトミカルのインプラントを用意して、組織拡張器を使わずに1回で入れてみました。そしたらみごとにそっくりになったのです。これを一期再建(通称、一回法)といいます。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

乳房温存に乳房再建を併用するべきか

乳房温存を希望したところ、「乳房を4分の1取って、その欠損に背中の皮下脂肪を入れようといわれた」という話をよく聞きます。

乳房温存術の局所再発率は放射線をかけなければ39%もあります。ということは39%以上の確率でがん細胞が残っているということです。放射線をかけることによって局所再発率は14%まで減少しますが、それでも全摘の3~6%にくらべれば明らかに高いのです。にもかかわらず温存が許されているのは生存率(つまり寿命)が変わらないことと、再建せずに乳房形態が保たれるからです。

もし乳房温存をしても再建が必要だといわれたら、むしろ皮下乳腺全摘(皮膚を残して乳腺を全摘する)をして再建をしたほうが将来の局所再発も少なく、広背筋とシリコンインプラントのどちらでもきれいに再建できるでしょう。

もしそれでも温存にこだわるなら、まずは小さく取ってみたらどうでしょう。

今は針生検やマンモトーム(マンモグラフィや超音波で観察しながら組織を取る検査)でしこりの一部を取ってがんの診断をしていますが、昔は外科生検といって怪しいところを手術で取ってがんの診断や広がりを調べたものです(私の年がばれてしまう)。

ですから外科生検のつもりで小さく取ってみて、もし取り切れていればそのまま放射線をかければいいし、取り切れていないとき(断端陽性という)や変形があるときは皮下乳腺全摘同時再建をしてはいかがでしょう。

温存して同時に再建をして、あとから取り切れていないとわかったときには追加手術が必要です。または取り切れていても局所再発の予防のために放射線をかけなければなりません。もしその後局所再発したときには全摘が必要です。再建した自家組織はまったく無駄になってしまいます。

温存は小さな切除できちっと取り切れて変形をきたさないときに限って行うべきです。

再建が必要な温存に存在価値はありません。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

健側乳房の修正

昔は家の中に囲炉裏がありました。赤ん坊がはいはいするようになると、頭が重いものですから囲炉裏につっこんで、顔半分をやけどすることもありました。

そんな子はいつも顔半分を髪の毛で隠して育ちます。しかし30~40代になるころには、赤く硬く盛り上がっていたやけどあとが、白く軟らかく平らになって、化粧をするとほとんどわからないくらいになるのです。

そのうち50代になると、健康な側の頬はブルドッグのように垂れ下がってくるのですが、やけどした側は張りがあるため、左右非対称になります。このときやけどした側を垂れさせることはありません。垂れた側を吊り上げるのが普通です。

乳房再建も左右対称な乳房をつくることが目的です。しかし再建した乳房は皮膚が足りないことが多いので垂れることはありません。このとき健側(健康な側のこと)の乳房が理想的なお椀型ならいいのですが、そうとばかりは限りません。そのときは健側乳房の修正が必要です。

健側が小さいとき…再建側は皮下脂肪も取られているので、あばら骨が透けて見えませんか。そんなとき小さなシリコンを入れても上のほうのあばら骨を隠すことはできないのです。もちろん反対側をいじりたくないときは絶対に豊胸してはいけません。しかし、もともと小さい乳房がコンプレックスで大きくしたいと思っていたなら、これがいいチャンスです。再建と同時に健側の豊胸も受けましょう。左右対称の乳房ができることでしょう。さらに年をとっても左右差が出にくいのです。

健側が垂れているとき…おなかの脂肪を移植する自家組織で、垂れた乳房をつくってご満悦の形成外科医もいますが、センスを疑います。垂れた乳房をブラで吊り上げるのは肩がこってたまらないでしょう。そのときは余った皮膚を取って、乳頭の位置を吊り上げるのです。

健側が大きすぎるとき…再建側に大きなシリコンを入れるのも違和感があって大変です。そんなときは健側の乳房の脂肪や乳腺を取って、小さくして治すのです。

左右対称は乳房を再建するためには、再建側だけの努力だけでなく、健康な側からの歩み寄りも必要なのです。

著者:ナグモクリニック東京 総院長・理事長 南雲 吉則

再建乳房と豊胸術

あなたに赤ちゃんが生まれたとき。

生まれたばかりの赤ちゃんはしわくちゃでおじいさんのような顔をしています。目も腫れ上がって真っ赤な顔をしてただ泣いているので、はたから見たらお猿さんです。それでもあなたはそのかわいらしさに感動することでしょう。

やがて大きく育ってくると、口答えはする、ものはこぼす、言うことは聞かない、他人に迷惑をかける……。いらいらすることもあるでしょう。

さて、あなたが乳房再建を受けたとき。

手術が終わって病室で初めて再建乳房を見たとき、あなたは平らな胸がふくらんでいることに感動するでしょう。ところが家に帰ってよく見てみると、再建した皮膚はまだ十分に伸び切っていないため、押しつぶされたような形をしているので、だんだん不安になってきます。

特に、あなたが乳房再建と豊胸術を同時に受けたとき。

豊胸術の側は軟らかく動きもあって、きれいで申し分ありません。しかし再建の側は違和感もあって傷の引きつれも完全に伸び切っていなくて、さわり心地もまだ硬く不安になることでしょう。しかしそれは酷というものです。

もしあなたが2人の子どもを授かったと思ってください。

お兄ちゃんは成長が遅く、身体も弱いけど、心はやさしい。弟はやんちゃで乱暴者だけど、元気いっぱい。そんなときどちらがすぐれているか優劣をつけますか。どちらもあなたにとってかけがえのない子どもです。それぞれのよいところをほめてあげれば、お兄ちゃんはお兄ちゃんなりに、弟は弟なりにすくすくと育っていくでしょう。

同じように再建と豊胸では出発点が異なるのです。再建した側が自然になるのには時間がかかります。手術直後が仕上がりではなく、半年、1年後を見越して手術をしているのです。豊胸したほうばかりほめないで、再建したほうもほめてあげてください。子どもがほめられて育つように、再建した乳房も豊胸した乳房も、毎日なでてあげながら「いい子いい子、きれいになってきたね」とほめてあげると、どんどん自然になって、あなたにとってかけがえのないパートナーとなることでしょう。