■乳がんの治療法の選択

治療法と主治医は自分で選べ!

今日、乳がんの治療は非常に進歩して、乳房の形態や機能を温存した様々な手術が生まれました。また放射線療法補助療法(化学療法、ホルモン療法)の組合せによって根治性が高まりました。同時にそれぞれの治療法の長所と短所も明らかになりつつあります。どの方法が最善かは、患者さんごとに異なります。あなたは自分の価値観に照らし合わせて、あなたにとって最善の治療法とそのための主治医を選択しなければなりません。

1.がんと診断されてから治療法を決定するまでどんな作業が必要ですか?

①がんの告知 検査・診断ののち、主治医から病名の告知を受けます。
②インフォームドコンセント 主治医から治療法についての説明を受けます。
③セカンドオピニオンを希望する 主治医にセカンドオピニオンを受けたいと伝えます。
④カルテ開示 セカンドオピニオンに必要な診療情報を提供してもらいます。
⑤セカンドオピニオンを受ける 診療情報を持って他の医師の意見を聞きます。
⑥治療法および医師の選択 複数の医師の意見を元に、治療法と治療医を選択します。

2.主治医から乳がんと告知されましたが、とてもショックでそのあとの説明が全く理解できませんでした。

がん告知とはがんを宣告する瞬間のことをさしているのではありません。医師と患者さんが真実を共有することによって、生涯にわたる信頼関係を築き、最善の治療を提供し続けるためにあるのです。真実を知ることはつらいことかもしれませんが、ぜひあなた自身が病名と病状の説明を受けてください。 ただし、聞き漏らしがないように以下のような工夫も必要です。
●あなたの質問の要点を箇条書きにしてまとめておきましょう。
●ちゃんと質問ができるか不安なときは家族か友人に一緒に行ってもらいましょう。
●そのときは説明内容のメモを取るかコピーをもらって、自宅で読み返しましょう。
●新たな疑問が生じたときはメモをしておいて、次回の診察時に必ず質問しましょう。
●メールやファックスでも質問ができないか聞いてみましょう。
●説明を理解・納得できないときは、もう一度わかりやすく説明してもらいましょう。

3.インフォームドコンセントとは?

がんの告知が行われても、病状に関する十分な情報が得られなければ患者さんの不安は増すばかりです。そこで生まれたのがインフォームドコンセントです。直訳すれば「説明のうえでの同意」。治療を始める前に医師が患者さんに十分な説明をし、同意を求めることと一般に理解されています。しかし医師の説明に患者が単に同意するというのでは、一方通行的な印象がぬぐえません。 実際の診療においてもっとも不足しているのは患者さんからの情報です。乳がん治療の選択肢は多岐にわたります。患者さんの価値観も1人ひとり異なります。自分に取って最善の治療法に到達するために、患者さんは自分からも医師に質問し、治療に何を望むのかをはっきり告げるべきです。真のインフォームドコンセントは医師と患者さんの双方が互いの情報を提供し、合意に至るというインタラクティブな(双方向の)行為であるべきです。そこで私は「双方の説明のうえでの合意」と訳しています。

4. インフォームドコンセントの際に、主治医にどのようなことを告げる必要がありますか?

次の情報は治療法およびその時期の決定に欠かせません。
仕事 すぐに仕事に復帰したい場合は、合併症が少なく短期入院が可能な術式を考慮すべきです。体力や運動機能を温存したい場合、胸筋の切除やリンパ節の郭清には慎重になるべきです。
家族 手のかかる家族がいて、家を長期に空けられないときは日帰り・一泊手術(第8章参照)もあります。子供の結婚式が間近の場合は手術の延期もあり得ます。
結婚 未婚の場合はなおさら術後の外観にこだわるべきです。将来結婚相手に悟られないような小さな傷で手術することも大切です。
妊娠 化学療法(抗がん剤)は不妊になる確率が70%あります。腹直筋皮弁による再建後は妊娠が困難です。
趣味 ダンスが趣味の場合、胸や背中のあいたドレスを着ることも考慮すべきです。スポーツが趣味の場合、手術後もそのスポーツが可能か確認すべきです。
価値観・人生観
 何をもって幸せとするかは人によって異なります。外観が損なわれても局所再発の予防を重視する方もいます。根治が不可能でもがんと闘うことを希望する方もいます。あなたの人生観(ときには死生観)を主治医に告げるべきです。

5.セカンドオピニオンとは?

主治医の意見「ファーストオピニオン」に対し、主治医以外の意見を「セカンドオピニオン」といいます。セカンドオピニオンには次のような利点があります。 多くの情報が得られる。
●異なる医師の異なった意見が聞ける。 異なる診療科の異なった治療法を知ることができる。
●主治医の診断・治療方針に誤りがないか確認できる。 診断・治療について複数の専門医間で検討してもらえる。
●自分に最も合った治療法および治療医を選ぶことができる。 さらに以下のような応用も可能です。
●患者さんには困難な専門的交渉を、もう一方の医師に代行してもらう。
●手術は遠隔地の名医にしてもらい、術後検診や抗がん剤の処方は地元の医師に頼む(地域を越えた医療連携)。
●手術・放射線・抗がん剤治療のそれぞれを、異なる施設の外科医、放射線科医、腫瘍内科医に分担してもらう(診療科の枠を越えた医療連携)。 セカンドオピニオンの取り方を紹介した『がんに勝つ法・セカンドオピニオンのすすめ』(南雲吉則編著、エール出版社)も参照してください。

6.セカンドオピニオンを希望するとき主治医にどのように相談すればよいでしょうか?

セカンドオピニオンはあなたの当然の権利です。主治医の機嫌を損ねるなどと心配する必要はありません。次のように相談しましょう。
●セカンドオピニオンを受けたいときには協力していただけますか?
●この病院に帰ってきたときは再び受け入れていただけますか?
●病理結果(細胞診や組織診)のコピーと今の説明のコピーをいただけますか?
●治療方針の決定に有用な検査結果やレントゲン写真を貸していただけますか? もし、あなたの主治医があなたの幸せよりも自分のプライドを優先して、セカンドオピニオンに協力しないならば、あなたの生涯の主治医にふさわしくありません。新たな主治医を捜しましょう。

7.カルテ開示とはどのようなことを指すのでしょうか?

カルテ開示のことを「カルテ全文のコピー」だと思っている方がいます。裁判のためならそれも必要ですが、それをコピーする人の労力も考えてください。セカンドオピニオンのために必要なのはカルテの全文ではなく、病理結果のコピーとレントゲン写真です。病理やレントゲンの所見が患者さんに難解な場合は、わかりやすい説明文を付けてもらいましょう。紹介状(診療情報提供書)をもらえれば、なおよいでしょう。医療情報の所有権は患者さんにあり、医師はいかなる理由があろうともその開示・提供を拒んではいけないことになっています。

8.セカンドオピニオン医にはどのように相談すればよいでしょうか?

セカンドオピニオン医に次のことを聞きましょう。 他の病院の診断に対するセカンドオピニオンをお聞きしたいのですが協力していただけますか?
●(病理のコピーやレントゲンを渡して)前の病院の診断に誤りはありませんか?
●この治療法を勧められましたが、先生ならどの方法を勧めますか?
●(前の医師と意見が異なる場合)それはなぜですか? 科学的根拠があれば教えてください。
●主治医に意見書(または報告書)を書いていただけますか?
●サードオピニオンが必要でしょうか?
●今後も協力していただけますか?

9.情報を集めよう。

最も情報を収集しやすいのがインターネットのホームページです。コンピュータに詳しくなくても大丈夫です。あなたの周りには必ずと言っていいほどインターネットに詳しい人がいます。相談すれば喜んで情報検索をしてくれます。 表7―1に信頼できるWebサイトを紹介します。
インターネットで情報を集めよう(表)
   表7-1 インターネットで情報を集めよう

10.どのような出版物を読めばよいでしょうか?

乳がんと宣告された患者さんがまず訪れるのは本屋や図書館です。乳がんに関する多くの本が出版されていますので分類してみましょう。
解説書 医師が乳がんについてわかりやすく解説した本です。
【利点】その本一冊で診断から治療まで網羅することができます。
【欠点】著者の意見に片寄る可能性があります。
医学書 医師が読む専門書と患者向けの家庭の医学書があります。
【利点】比較的公平・公正な情報を得ることができます。
【欠点】専門書は最新の診断・治療について知ることができますが難解です。家庭の医学書は内容が古いことがあります。
体験記 患者さんが自分の体験を綴ったものです。
【利点】同じ感情や体験を共有できます。
【欠点】医学的裏づけはありません。他の人の選択があなたにとっても最善とは限りません。
代替療法紹介本 独自の健康食品や免疫療法を紹介した本です。
【利点】主治医から治療法がないと言われたときに勇気を与えてくれます。
【欠点】科学的根拠に乏しく、有効性の証明されていない高額な健康食品や自費治療を売らんがための広告本がほとんどです。標準治療が可能な場合に参考にすべきではありません。
がん専門誌 がんの最新の情報を紹介している雑誌です(五十音順)。
『がんサポート』(月刊)定期購読申し込み 電話03(3526)6300

11.友人や家族にはどのようなことを頼めばよいでしょうか?

あなたと主治医により治療法の検討が十分になされていたとしても、さらにあなたが信頼している人との相談が役立つことがあります。ただし、あなたが乳がんになったことを人に知られたくないときは、その旨をしっかり告げましょう。
感情を分かち合う 乳がんと宣告されてあなたがショックなように、あなたの家族や友人も不安を感じています。あなたの感情を素直に打ち明けることにより、彼らもまたあなたをより身近に感じることができます。心の絆がより深まることもあります。
頼み事をする 乳がんについて知れば知るほどあなたは落ち込みを感じ、何も手につかなくなることがあります。かといって何もしないでいると最善の治療法を選択するチャンスを失うことになります。あなたがしなければならないことで他の人にもできることは、遠慮せず身近な人に頼みましょう。外来の予約、キップやホテルの手配、インターネットによる情報の検索、診察時の付き添いや送り迎え、留守中の家事など。
相談された方へ 乳がんと宣告された患者さんの多くはうつ状態にあります。叱ったり励ましたりするとうつ状態が悪化します。患者さんから相談された方は静かに話を聞いてあげてください。また患者さんが自らの治療方針を決定するまで、決して意見を押しつけないでください。

12.乳がんを経験した人と話をしましょう。

乳がん患者さん同士のサポートグループに問い合わせると、乳がんをすでに治療した人がみずからの経験に基づいて様々な疑問に答えてくれます。サポートグループに入会すればいつでも相談できる友人を得ることができます(表7―2参照)。乳がんをすでに克服した人たちの経験は、あなたのこれから歩む道に希望の光をともしてくれます。そしてあなたの経験も、将来同じ道を歩んでくる人にとって希望の光となるのです。

13.メールやファックスでもセカンドオピニオンは受けられますか?

キャンサーネットジャパンでは24時間セカンドオピニオンを受け付けています(表7―1参照)。メールでご相談ください。専門医が数日以内にお答えします。
       がんのサポートグループ(50音順)(表)
                  表7-2 がんのサポートグループ(50音順)

14 主治医選びはどのようにしたらよいでしょうか?

主治医とはあなたの治療を担当し、治療後の経過を管理する医師を差します。したがって、主治医の善し悪しはあなたの乳がんの治療結果と治療後の人生に大きく関わります。 にもかかわらず、安易に主治医を決めてしまう患者さんも少なくありません。こうした患者さんの多くは、治療後の経過が思わしくなくなってから、他にもっとよい病院はないかと、あわてて様々な本を読みあさって、あちこちの医師を訪れるのです。あとで後悔しないためにも主治医選びは慎重に行いましょう。
●最初に乳がんを発見してくれた診断医を主治医にする必要はありません。他の医師も受診して診断や治療方針に誤りがないか確認してもよいのです。
●診断医から医師を紹介されたとしても、その医師を主治医とするかどうかはあなたが決めるのです。
●大病院だから信頼できるとは限りません。大きな病院ほどあなたの要望に細やかに対応できないこともあります。また研修施設を兼ねた病院では若い医師に手術をさせることもあります。
●肩書きで主治医を選ぶ必要はありません。教授よりも講師のほうが乳がんの専門であり腕がよいことがしばしばあります。
●その病院の中で一番腕が良く親切なのはどの医師か、外来の看護師にこっそり聞けば教えてくれることがあります。
●たいていの医師は治療の前は親切です。治療前にもかかわらず態度の悪い医師は、治療後はもっと悪くなると思ってください。
●どんなにあなたがしつこく質問をしてもいやな顔一つせず丁寧に説明してくれる医師は見込みがあります。
●早く入院治療しないと手遅れになるよ、などと脅しをかける医師は要注意です。あなたの主治医選びの手伝いをしてくれるような医師のほうが信頼できます。
●入院しないと検査結果や治療方針の説明をしてくれない病院も要注意です。あなたがよその病院でセカンドオピニオンを受ける機会をじゃましようとしているのです。 乳がんのサポートグループのいくつかに相談してみて、医師や病院の評判を聞いてみるのもよいでしょう。
●最後の決め手は生涯つき合えるような気の合った医師を選ぶことです。